「幼稚園の顔とお家の顔」

園長 秋山 徹

幼稚園の庭は緑にあふれています。リンゴやプルーン、クルミやビワ、白樺にカツラ、イチョウ、どの樹も、枝と葉っぱを太陽に向けて、「わたしを照らして!」「わたしを照らして!」と、われも、われも、少しでも隙があれば枝を伸ばしていっぱいに光を浴びています。その緑がいっぱいの葉っぱの中にも、よく見ると小さな実が見つかります。今年はリンゴの実はほとんど見当たりませんが、プルーンやクルミの実は緑の保護色で上手に身を隠していますが、いっぱい実っています。ビワは、今年は小作ですが少し黄色く色づいてもうしばらくすると子どもたちの口に入ることでしょう。今年、幼稚園の子どもたちは昆虫に特別興味のある子が多いようで、朝、幼稚園に来るときにも昆虫籠を持って、中にいる何かの幼虫やダンゴ虫やてんとう虫などを見せてくれますし、来るとすぐに建物の周りにある草むらを仲間と探し回って、いろんな昆虫を見つけだしています。昆虫には今年は受難の年かもしれません。このように自然の環境に身をおき、その働きの中で生きていること、それらと共に生きていることに目を留める子どもたちの目は輝いています。

最近、幼稚園の野外保育やお母さんと一緒に食事をする機会などを通して、お母さんたちが幼稚園で過ごして、子どもたちがどんな風に過ごしているかを観察する機会が何度かありました。そんな経験をされた何人かのお母さんが、ご自分のお子さんを見て、幼稚園で過ごしている顔とお家で過ごしている顔がだいぶ違うと驚いていることを聞きました。家ではお食事の時に全く自分から食べようとしないので、お母さんのほうが手を出して食べさせてしまうことが多いのに、幼稚園ではさっさと自分でお弁当を食べている姿に驚いたり、家では何でもよく自分から話をして、しっかりしているように見えるのに、幼稚園では仲間はずれにされている様子を見たり、幼稚園での子どもの意外な姿を見て驚かされるのです。それは、当然のことです。お家の中では一番小さな弱い存在であっても、同じ年代の子どもたちの中では力づよい自分を演出するためにはリーダーシップを見せて、自分の位置を確保しなければなりません。お家の中では王様や女王様であっても、子どもの集団ではみんな同等で、従うことも学ばなければなりません。こうして幼稚園の集団生活をすることによって社会に適応することができる人に成長してゆくのですから、お家の顔と幼稚園の顔が違っているところを見ることはとても大切です。

親として、幼稚園の子どもの顔に介入することはできません。本当に大切なことは、これから社会の中で自分の位置を見出してゆくとき、どうしたら、自分のことだけを考えて誰かに依存して生きるところから、自然の環境やその中で生きているいと小さいものをいとおしみ、他者の弱さや悲しみの心を思いやる心を持って生きてゆく心をたくましく育ててゆけるか考えることでしょう。そのためには、大きな目と心で、どんなときでも受け入れてくれるところがある母の家を用意すること、これも大切なことの一つです。

上尾富士見幼稚園 えんだより 2015年6月号