「子どもの生命力を奪わないで!」

園長 秋山 徹

風かおる5月、幼稚園の朝は子どもたちが庭いっぱいに広がって、砂場や鉄棒や、ライク・ア・バイクを乗り回して、のびのびと、生き生きした姿が、そこにもここにも見られます。部屋の中で静かに折り紙をしたり小さな仲間たちとおままごとをしている子どもたちも、それぞれ思い思いに、自由に遊んでいます。目を高く上げて空を見ると、青空の中でみんなで作った鯉のぼりが風に揺らぎ、その向こうにはアオギリがさわやかな紫色の花をいっぱいに咲かせて、カツラや白樺の新緑の中に彩りを添えています。まさにシェーネ・メルツ(美しき5月)です。

4月から新しい仲間が加わって、それぞれのクラスの先生たちは一人ひとりの子どもの個性を観察しながら、どうしたらみんながクラスの中にとけこみ、豊かな交わりの中で一人ひとりが成長してゆけるかと懸命に取り組んでいます。家庭訪問をして、それぞれこれまで生きてきた環境や家庭の状況をお聞きし、一人ひとりの特性の把握に努めます。集団の中に入って妙に乱暴な言葉遣いや暴力的な行動に走りがちな子ども、ちじこまって集団の中に入りにくい子ども、障がいのレベルではないにしても、さまざまな問題を抱えていると思われる子どもについても、その背景を考えながら、どのように安心と落ち着きをもたらし、自分のことだけでなく、人のことも考えられる人になってゆくか、人として生きるための土台を確かに造るための作業は、まさに人としての基礎の形成にかかわる幼稚園の仕事です。一人ひとりの子どもと深く出会ってゆくにつれて、大きな期待と愛情の中でこれまで育てられて来たに違いない子どもの中にも、期待する姿とは違った暗さに出会わされることが多いのも事実です。

数年前にもこの「幼稚園だより」で述べたことですが、一人ひとりの子どもの生き様を観察しながら、現在の子どもが生きている社会環境のことを思わずにはいられません。子どもの持っている本来性、自然性、が、現代社会の子ども観によって阻害され、抑え込まれて、本来の生命力が衰退しているように思えるのです。総理府による「親が子ども期待すること」についての調査では、1. 規則を守り、人に迷惑をかけない道徳心や公共心、2.相手のことを思いやる心や相手の立場を理解する寛容性、3.基本的な生活習慣、4.礼儀正しさ、5.責任感、といった項目と順序でした。(1992年、総理府『親の意識調査』) 少し古い統計ですが、これは、おそらく現在もあまり変わりないでしょう。これらの期待に沿って、幼稚園や学校が教育をしたらどういうことになるか。わたしは、「子どもが子どもでなくなる」、と叫びたくなります。もし、子どもが、親の期待に応えて、これらの項目を試験する点数に高得点を取って、とてもよい子になったら、その子どもはどうなることか。かたい、創造性のない、人のことに関心をもたない、とても退屈な人になるのではないでしょうか。日本の教育は、そういう人を造るために、沢山のお金をかけ、労力をかけているように思えます。「空の鳥をよく見なさい・・・野の花がどのように育つのか、注意して見なさい」と語られる主イエスの言葉に導かれ、天の父の命のやしないに心を合わせましょう。

上尾富士見幼稚園 園だより 2015年5月