「試し行動」

秋  山  徹

一年で最も寒い季節、暖冬が続くと安心していたところに突然の大雪、お天気に翻弄される日々ですが、子どもたちにとっては雪が積もることは神様からの特別なプレゼント。まるで、わたしたちのために用意してくださった遊びの世界とばかりに、雪だるまをつくったり、雪の山を作ってすべり台にしたり、かまくらをつくったり、凍えて縮じこんではいません。いたるところで工作活動が始まります。部屋の中では、沢山の段ボールや箱を持ち込んでさまざまな乗り物づくり、今年の制作展のテーマは乗り物ということで、長く箱を連結させて作った列車やミニカー、バス停もあります。思い思いに自分の好きな乗り物を観察して、工夫して作っていることがよくわかります。ぜひ見に来てください。

最近の新聞から興味深い記事を目にしました。家庭養護促進協会の大阪事務理事岩崎美枝子さんという方のインタビュー記事ですが、実の親が育てられない子供のために育て親を探し縁組する「愛の手運動」を50年近くのしてこられた方の観察に深く教えられるところがありました。岩崎さんは、「血縁のない人同士が親子になる」という特別な関係を観察して、「意識的に親子になろうとする分、逆に親子関係の本質が見えてくる面がある」として、次のような現象が起こるというのです。

「だいたい1歳半以降の子どもたちが施設から育て親の家庭に移った際に共通してみられる行動パターンがあります。引き取って1週間ぐらいはみな聞き分けの良いお利口さんで、わたしたちは『見せかけの時期』と呼んでいます。だけど、その後は豹変する。赤ちゃん返りをしたり何かを激しく求めたり、様々な形がありますが、親が嫌がったり困ったりすることを執拗に繰り返すのが特徴です。たとえば、お母さんが女の子を引き取るのでじゅうたんを新調したのに、子どもがその上でお漏らしをしてしまった。その時に『せっかく買ったのに』と顔をしかめたら、それを見て、おしっこをするときに必ず同じじゅうたんの上に行って『おしっこ出る出る、出たぁ』とやるんです。・・・・私たちはそれらを『試し行動』と呼んでいます。個人差はありますが、平均すると半年ぐらいはそれが続きます。」と。このような現象があることに驚かされますが、岩崎さんは、その言葉も十分にしゃべれない幼児がする『試し行動』が起こる理由を、次のように観察しています。「どこまで意識してやっているかは分かりませんが、弱点を見抜き、そこを的確に攻め込んでくる。親の嫌がる雰囲気は子どもに確実に伝わっていると思います。その上で『嫌がることを繰り返す私を、あなたはどれだけちゃんと受け止めてくれるのか」を確かめようとしている。子どもたちの中には、『そこまでやらないと大人は信じられない』という何かがあるのではないか。…乳児院で育てられても、何人もの保育士が赤ちゃんをケアするから、特定の大人と信頼関係を取り結ぶことはなかなか難しい。そんな中で、子どもたちは『誰かに心の底から受け入れられたい』という欲求をあきらめてしまう。育て親が『この人なら受け入れてもらえるかも』という思いが芽生えたとき、受け入れへの欲求が再び目覚め、試し行動が始まるのでしょう』

岩崎さんの育て親と子どもの関係についての観察から、実の親子の関係でも気づかされることがありませんか。どうして子どもがわざわざ自分をいらだたせる行動をするのかと悩んでいることをよく聞きます。その理由は、条件付きではなく「心の底からわたしを受け入れて」という叫びなのですね。

上尾富士見幼稚園 えんだより 2016年2月号