「フジミ幼稚園の運動会、なんかバラバラ」

園長       秋  山  徹

11月にはいります。秋たけなわ。園庭のざくろの木にはいっぱいに実をつけて、甘いルビーのような種が中からあふれ出ています。柿も、くるみも、ぎんなんも、今年は豊作で、それぞれの独特の味わいを子どもたちの口に運んで味わわせてくれています。おいもほりや榎本牧場にも出かけて、外の自然もあじわいましたね。幼稚園で経験する本物の自然の味やかおりは、今ではほかで経験することは少なくなっていることでしょう。果物を実らせる木々は、実りの秋の呼びかけに忠実にこたえて、それぞれに与えられた一年の働きの決算を、無償で、ふんだんに、わたしたちに与えてくれています。神様の造られた自然の奥深さ、豊かさを感じさせられるこのごろです。
先日は、幼稚園の運動会でたくさんの方々がきてくださって、かけっこや、リズム遊び、バルーンや、玉いれなど、保護者の方々も一緒に楽しいときをすごしました。最後の年長組のリレーでは、走る本人たちも、見ているみんなも熱中しますので、いつもは一回だけでは終わらなくて、「もう一回!、もう一回!」と子どもたちから声が上がるのですが、今年は、「どう、もう一回やる?」と先生が聞いても、「やらない!」という声が圧倒的。それで一回だけで終わりました。

「おはなしノート」にはたくさんの保護者の方々から運動会の感想が寄せられていましたが、その一つ一つに、みんな、子どもたちの動きから大きな感動を受けて、家族ともどもよいときを過ごされたことを書いてくださって、その言葉に励まされました。そのなかで、こんな感想を寄せてくださった人がいました。運動会の日の夕食時に、かつて富士見幼稚園児で、いまは小学校に通う娘さんが、「なんかバラバラだった」と、幼稚園の運動会の感想を口にしたというのです。最近まで、そのお姉ちゃんもバラバラの中で自然に過ごしていましたが、小学校に入って、小学校の運動会では、「いつも先生が怒っている」と言いながら、まじめに練習に取り組んでいました。その成果は、多人数の子どもたちが整然と一糸乱れず踊る姿や規律を守って並ぶ姿は、それは素敵で、見ごたえがあったそうです。でも、お母さんは感じました。「いまの日本の教育の現場って、こうなんだよな。でも、だからこそ、幼稚園のあいだだけでも、強制されない、その子の意志を尊重しながらの運動会を経験させてあげるのは、子どもにとっても、もしかしたら、わたしたち親にとってもステキなことなのかなぁ」と。

その後のお母さんの対応がすばらしい。小学生の娘さんにお母さんは言ったそうです。「右手を上げてください、といわれて、右手を上げるのが正解で、そうしなさい、そこにあなたの気持ちはいらないって言われるのが学校だとするでしょ。フジミ幼稚園はね、そのときに左手をあげても、両手をあげても、右の指を上げても、その理由を聞いてくれて、それもいいね、って言ってくれるところなのかもね。バラバラみたいに見えるけれど、バラバラの中にも、みんなの楽しさが大事にされているように思えるよ」と。

一人ひとりの子どもの命の成長を、その子らしさが大事にされて、みんなそれぞれ自分らしさが出ていて面白いと、感じてくださる、そのまなざしが、子どもの心を豊かにし、幼稚園の働きを意味あるものにする肝心のことだと、わたしも感じています。

上尾富士見幼稚園 園だより 2015年11月